となりのコー君

[rakuten:figarohouse:10000175:image] どんなに頑張っても、普段ぼくたちと一緒に仲良くしている犬たちは、われら人間よりも先にその生を終えます。なんとも残念だね。

 少し思うところがあって、ぼくはさいきん彼ら犬族を、以前よりもキチンと観察しています。キチンといってもぼくのことですから、それは普通のキチンではなく、まぁいわゆるぼく流のキチンであるからして、なんともキチンとはいえません・・・わけわかんないね。

 とにかくそのキチン観察なんだけど、そのポイントはね、話しかけたときのかれらの反応を観察することなのです。さらに細かな観察ポイントを言うと耳の動き、目の表情、しっぽの振れる速度、そして首の動きなどです。なかでも重要なポイントは目の表情だな。

 さてさてそこでまた登場するのが、我が家の賢くて優しくて辛抱強くて時々しか人を噛まないケンタクンです。かれは今年7歳になりました。そうか、もう中年になるんだなぁ。本人はまるで自覚がないけどね。

 でね、彼は以前と比べるとずいぶんと賢くなったように感じるのです。いえね、何も自分とこの犬だからほめる・・・のでは決してはありません。

 「あのさぁ、あんたさぁ、ちょっとばかしヒイキ目なんじゃないの」なーんて思われるかもしれませんが、そんなことは少ししかありません。ありませんとも。スコシ。

 じっさい何度も経験しているのですが、彼はぼくが話しかけたことを、なんとキチンと理解しているようなのです。ほんとです。

 以前はね、それは以心伝心なんて感じで、心の中で思った事を、いわゆる犬族のその動物的超能力の分野で感じ取っているに違いないと思っていたのです。いやはやなんとも犬族の動物的超能力は、ぼくの持っている精神偏り脳みそ的超能力と比べても遜色がないな、などと感じていたのです。

 しかーし、それは大きな間違いと気がつきました。間違いでなければですよ、彼は大いなる学習を毎日していたことになってしまいます。そうなるとケンタクンはですよ、たとえば毎朝4時に起き、そんでもって日本語学習ノートを広げ、毎日1ページ分を音読して暗記して・・・んなことあるわけない!はい、ごめんなさい。

 とにかく、いつのころからかキチンと言葉を理解しはじめました。でね、ここからがちょっと切ないのだけど、おとなりにコー君という犬がいてね、彼はもう19歳になるのです。なんとも長生きです。

 少し前まではね、散歩のときも、普段からそうなんだけどケンタクンは犬嫌いなんで、となりのコー君なんかはまるで無視していました。でね、ある日の朝、唐突に、コー君は歩けなくなっていました。その場にちょうど散歩に行こうと通りがかってしまったぼくは、涙ぐむ奥さんにどう声を掛けていいかわからず。ただただ立ち尽くしてしまいましたね。まったくダラシナイのです。

 けどそのときね、ケンタクンが声を出しました。ぼくにでもなくとなりの奥さんにでもなく、そうコー君に向かってです。ホンホンホンとなんとも優しい声でね。もちろんぼくが始めて聞く声です。優しい声でしたよ。一生懸命立ち上がろうとしているコー君に。「あんまし無理すんなよ」って言っているようにね。

 ぼくは近所の雑木林で、彼に話し掛けてみました。「あんなぁ、やっぱしなぁ、年はとりたくねえよな」

 ケンタクンはぼくを見上げ「ホン」とやさしく吼えました。ぼくははっきり自覚しましたよ。こいつはぼくの言っていることがわかるんだとね。

 毎度のことで恐縮ですが、犬族はぼくらよりはるかに短い生涯です。だからそのぶん、ぼくは彼らとの時間を大事にします。