恥ずかしげな残り柿  


 
 「毎日の散歩じゃあたいへんでしょう。疲れない?」

 なんてよく言われます。毎度毎度のこの手の質問には、はっきりってうっとおしいのだけど、しかしじゅうぶん大人でしかもキチンとした社会人を目指しているぼくは

 「そうですねぇ、やはりそれは、ぼくだけの問題ではないのですね。こいつらにも、それなりの意思があって、それで希望もあるのです。それはぼくらが生きる意味について考えると同様にね、だから・・・」

 この辺まで話すと、たいていの質問者は、いけないことをいけない人に聞いてしまったな、と思うのでしょう。モロにその感情を顔イッパイに浮かべ、急に自分の腕時計を見たりするのです。

 「イケナイ!こんな時間か。どうもうっかりしていたようで失礼します」なんていいながら逃げていくのですね。ハハハ、

 なんですね、最初から挨拶のつもりかなんかしらないけど、ぼくにとっての犬連れ散歩はほとんど日常で、しかも生活の一部で、そのことに生きることの3割ぐらいは割いているといっても過言ではないのですよ。

 だからね、気軽にそんな質問をすると、ぼくは聞いていただければ30分ぐらいは平気で話し続けるのです、一度30分聞いてくれたおばさんがいましたが・・・かわいそうにフラフラしながら帰っていきました。

 えとそのおばさんたまに見かけるのですがね、どうしたんだかぼくに気づくとサッと方向を変えてね、そんでもって連れている犬を抱き上げて行っちまうんですよ。どうしてだかねぇ。

 いつも思うんだけど、散歩にもイロイロあってね、ぼくのそれは犬が主導なんです。だから止まったり引っ張られたり、急に走り出したりとメチャクチャ。

 だからね、ときどき、さもわかったような顔で、犬との散歩はこうあるべきですなんて話を聞くと、それはお前さんの好きな散歩に犬を同道させているということに過ぎない!と、ぼくもわかったような顔で思うのです。

 きょうの飼い犬(名前はケンタクンといいます)は、ぼくがめずらしく帰宅が遅くなり散歩が夕方になったため機嫌が悪く大変な散歩でした。

 そこいらじゅうで人に唸り、子犬だろうが猫だろうがフランスから交換留学で来ていて、ふだんならゴロニャンと擦り寄るジョセフィーヌちゃんにも恫喝し、オシッコを振りまき、飛び跳ね、草を食いまくりの1時間です。

 さすがに帰り道、我が住まいが近づくころには落ち着きをとりもどし、「こんどジョセフィーヌちゃんにあったらなんて言い訳しようか?」などと聞くので、ぼくはバカ犬の頭を、おもいっきり拳固で殴ってやりました。

 近所の家の柿の木は、葉っぱがほとんど落ちてしまいました。そのてっぺんに残っていて、脚立でも届かないので切り落とせなかった柿が、なんだか恥ずかしそうにゆれていましたよ。

東京犬散歩ガイド

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