ちょっと悲しいな

 おじさんはね、さいきんかなり涙腺が弱っちまってきてます。そんなもんだからちょっとしたことで、すぐ涙が出てきちまう。困ったもんだね。また人前でそんなことがあると、ちょっぴり恥ずかしくもあるのです。

 それでもいまのぼくは、昔と違ってあんまり感情を抑えることはしません。そう決めたのです。いえね、とくに大きな理由があるわけではないのですよ。でも感情をあまり内に押さえ込むことは、それはそれで、精神を少しずつ蝕んでいくように思えるのです。おおげさですかね。

 じつわね、このあいだも話題にしたお隣のお隣の飼い犬、名前をコー君と言いますが、その彼はなんとことし18歳になったのです。犬にしてはたいへんな高齢ですよね。

 早朝の時間、そうもう4時ぐらいからだね、彼はちょっとばかし透き通る声で「ホンホンホン」となき続けていました。それでも6時過ぎには、泣き声がとまりましたよ。止まったのはいいけど、ぼくはちょっと心配でのぞきに行きました。

 のぞいてみると、なんとまあこの冬空の中、もう満足に歩くことができない彼は、たぶん夜中に、一生懸命小屋から外へ出たに違いありません。何か理由があってね。でもってそのある程度暖かい小屋に、戻ることができなかったみたいです。

 ぼくが見に行くと、コンクリートの上で横たわっている彼は、なんとも悲しそうに震えていました。ぼくは慌てて家に戻り、捨てようと思っていた古いジャンバーを持ち出し、とにかく彼にそっとかけてやりました。まだ朝が早いので、家主を起こすには遠慮がありましたのでね。

 ぼくの気持ちがそう思わせたのでしょうが、毛布代わりのジャンバーを着た彼は、すこしばかりうれしそうに見えました。ぼくはジャンバーのヘリを、さらに彼のお腹の内側に差し込んで、その場を離れましたがやはりぼくは、涙は抑えることができませんでした。

 いま犬は、かなり長命になっていると聞きます。それはやはり昔と違って獣医さんにイロイロ相談したりすることが普通にできるようになったことや、あるいは専門食の普及などがあげられるのでしょう。けどぼくは、それをそれほど評価しないのです。

 またアマノジャクなと、きっとお思いでしょうね皆さんは。でもぼくは、無理無理生かすことが、彼らにとってそれほど幸せなことだとは思わないのです。思えないのです。

 あのね、みなさんの反発をかうと思うけど、抗議が出るとおもうけど、あえて言わせてもらうと、たぶんそれは、飼い主の自己満足だと思います。どう反論しようと、間違いないと思います。

 どうです、できたら一度、散歩に出かけた折りにでも、飼い犬とそのあたりのことじっくり話し合ったらいかがですか。まだ若いうちにね。

 あんがい答えが返って来ますよ。犬の気持ちを受け取ることができるように、純粋に、心を開いておけばね。むずかしいかな。