カミカミ王子

 カミカミ王子ってなんだと思われるかもしれませんね。普通そうたいていの王子は、若者で、さわやかで、純真で、笑うと前歯がキラッと光って、そんでもって

「えと、ぼくは。これから皆様をお手本に勉強を重ねます」

 なーんて言っちゃう人のことを言うんでしょうね。やはり普通は・・・

 しかーし、オッサンは常日頃から公言しているようにですよ、ちょっとばかし普通ではないのです。しかこの「普通ではない」の言葉の奥底にある、それはもうすばらしい哲学を、ほんとうに一部ですがわかる読者も中にはいるのです。

 えとつまり余計なことを言いましたが、カミカミ王子とはぼくのことです。えぇー、中年オヤジは王子って呼ばないだろうって、たしかにそうです。あんたはエライ。でもね、偉い人ばっかしでもねぇ。やはり世の中まわっていきませんからねぇ。

 とにかく「世の中偉い人ばっかしだといいな」なんて思うこともあるけど、反対にそういう人ばっかしだとつまんないなとも思います。まぁつまりですね。早い話ガですね。

 「世の中上っ面だけで生きている方が楽しく楽だ」と思うことも、またいろんなことを、「いつも深く真剣に考えて行動することも、たまには必要ではないか」なんていった、両方が、比重はどっちかに偏ることも多々あるけど、それらが両方あればいいなっていうことを言いたいのです。

 なんだか前日まで、ずーっと天使1号だの北極2号だのの話をしていたので、そっち関係の読者が、ほとんど偏った期待をもって読んでいるのに、いきなり「真剣に、深く、キチンと物事を考えろ」なんていう話が展開すると、きっとすぐこの場からいなくなるのでしょうね。

 それはそれで寂しいけど、でもオッサンは清く正しくキチンとした後半生を目標としているので、そこいらは外せないのです。であるので今日は北極2号も天使1号も出てこないのであります。でも少し先になれば出てくるかもしれません。たぶん。

 えーと、何の話をしようとしてたんだっけ・・・オゥソウダ!とにかくカミカミ王子なんですが、その意味は実は奥歯に関係あるのです・・・

 「テメェフザケンナヨ。やっぱ北極2号が出てくんじゃねえか」と、一部社会の上っ面を楽しく愉快に生きていて、そんでもってほとんど享楽人生を目的としているアナタ。違います!

 じつはですね、奥歯が片側なくなってしまったので、しかもいつもそっちの奥歯が咀嚼(そしゃくと読む。意味はよくかむこと)専門で受け持っていたので、なんだか食事がへんてこになりました。つまり十分に噛んでいないようなのです。

 だあら頭も弱いけど胃腸も弱いぼくは、脱ぐと凄いんだけど腸がそれほど強くないぼくは、考えましたね。ここはひとつすべての調理をいつもよりやわらかめにするべきではないか。そうすることでぼくのバンビのようなか弱い胃腸が助けられるのではないか。ウンコもいままでどおり日に3回のペースを守れるのではないかとね。

 しかーし問題は、調理関係のそこいらを受け持っているカミさんにどう話すかです。とにかく忙しい方なので、その話する場合、やはりなんかしら貢ぎ物をまずして、すこしばかり気分をよくさせ、その上でことにあたったほうが賢明かもしれない。そうでないと「フザケンナ」の一言で済まされてしまうかもしれないと考えたのであります。

 しかーし、なんと、貢物のチップスのチョコレートケーキが幸いしたか、カミさんは優しい天子のような声で(えと天使のようなのは声だけです)「イイワヨ」言ってくれました。ぼくはあまりの感激に思わず目が潤み、不覚にも一粒の涙をひざに落としてしまったほどです。

 夕飯はいつものように孫まで含めて大人数です。ぼくは席に・・・・ぼくの席・・・・

 「えと、カーサン。あのえと、ぼくの調理関係・・・えとここぼくの席なん・・・だけど」

 「だからさぁ、優クンと一緒でいいでしょ。2歳児の食べ物はだいたい柔らかだから、多めに作っといたからね。よくカミカミしてね」

 「えとでも、これでは・・・ぼくは十分大人だし・・・これ・・カミカミって言ったって・・」

 とにかく食べました。少し俯き加減になって食べたことを、誰が非難するのでしょう。いまのぼくはどのように、明日からは普通のものでいいからと言おうかと悩んでいます。もうカミカミしたくありません。