くちずさむ

 歩きながら歌をくちずさむことなんて・・・めったにないな。というよりそれはうんと昔に戻らないとないね。

 記憶を無理やり、頭の奥のほうから引っ張り出しても、やっぱりそれは中学生で終わりです。そのころは加山雄三とかビートルズとか、それからグループサウンズ・・・

 でね、ぼくが少し変わっていたのは、なんとあの三橋美智也とか春日八郎とかいった、おもいっきり年寄り好みの日本の歌が大好きだったのです。でも三波春夫はそれほどでもなかったなぁ、ゴメン。

 そんな歌をくちずさんで歩いているとね、大人からは笑われ、でもって同級生からはからかわれましたよ。ぼくはもうそんなころから、空気は読めず、他人を気にせず、好き嫌いがはっきりとしていました。

 であるので、あまり他人と心を合わせることが苦手でね、だからしかたなく犬や猫とお友達になっていたのです。亀やインコも友達でしたよ。

 そんなぼくですが、なんと好きな人ができました。驚きです。音楽の臨時教師(たぶん)であったその人は、1学期だけの先生でしたが、ぼくは好きになってしまったのです。でもってその人が洋楽のファン。

 キラキラと輝く目で、ぼくらにカーペンターズのすばらしさを語ってくれた日を、いまでも鮮明に思い出すことができます。

 お小遣いをためて、ぼくが始めて買ったレコードは、春日八郎でもなく三橋美智也でもなく、カーペンターズでした。


 胸の奥のほうが締め付けられる

 食欲はぜんぜんない

 授業中も休み時間も考えた

 先生の写真がほしかった

 ぼくはいつまでも学校に残っていた

 冬休みを死ぬほど恨んだ

          深津 勝