ミックス

        
      

 遠くまで、どこまでも、延々と続く広野、そんな広がる風景にぼくは見とれて、そしてまた物思いにふける。ビデオを見ながらいつものように、ぼくは心を膨らませるのです。


 そんな少しばかり病的な感性がうとましく、そして、だから、何かに向って舌打ちをしました。


 対する何かは常に疑問とします。でもほんとは、そんな疑問は、ちょっとした努力で解消できることは知っているのです。けど、だらしないけど、それさえすることができないぼくがいます。臆病なほどに真実を避けているのです。


 そうしても、そんなことをしてても、感情は遠ざかりません。はんたいに壊れていく心は確実です。大きなブロックの端から、ぼろぼろとはがれて行くそれは、確実に速度を速めています。


 雨の中今日も、傘を差さずに出かけました。帽子の淵から垂れる雨が目を曇らせてくれます。我が家のケンタクンは雨なんか関係ないようです。いつもどおり平然と肩を切って先頭に立ちますから。


 正直に言うとぼくはね、いつも、本当は彼に連れまわされていることを自覚しているんです。生まれてから今年で10年目に突入する彼は、けっこう思慮深く、きっとぼくを散歩に連れていってやってるんだ・・・なんて思っているのに違いないね。


 じっさいそうなんです。ぼくより彼のほうがよっぽど上手なのですから。





 怒り



 通り過ぎる人が犬を見て言った「雑種?」

 ぼくは強く手を握り、はき捨てるように「ただの犬」

 きっとびっくりしたでしょうね

 あのね、記憶の端っこにいる友達はみんなミックスでしたよ

 ぼくの育った基地の町、そこは異国でしたよ
 
 友達の多くはね、そう黒や白や黄色や茶色、みんなミックスでした

 それでもね、流す涙は、みんないっしょなんだ、悲しいくらいね。

 通り過ぎる人の背中にぼくは思う

 あなたに何も責任はないんだけど

 あなたには理解する義務などこれっぽちもないんだけど

 でも、すこしだけ知ってほしいんだ

 雑種なんていう言葉に、うんと傷つく人がいることをね

                 深津 勝