わかってください

               

わかってください


いつごろだったのでしょう、ぼくの好きな演歌歌手が薬物所持で捕まりました。それ以来、ぼくは彼女の歌声を地上波メディアから聴くことがありません。でね、最近の同様の騒動で大騒ぎしているメディアを、なんともうっとうしく感じながら、彼女のことを考えました。


自分の意思で生きる社会を変えたのでしょうか。それとも・・・


ぼくはね、このまま彼女が忘れ去られても、それでも、よってたかって新たなる金の生る木とばかし、群がる連中に引っ張り出され、踊らされ、あげくにまたまた虚飾の人生を人形として歩むより、ぼくは何倍もそのほうがうれしい。


雑木林の景色が薄くなり始めました。木々の葉が落ち、思い出も少しずつ切り落されていきます。ここのまま静かに残したいと、彼女の歌を思い出し、真夜中に熱いシャワーを浴びました。熱い雫に打たれながら、ぼくは歌声を閉じ込めたくて歌詞を探します。


流れ落ちる雫は歌詞とおなじでしたね、それは彼女の消えてなくなる過去に重なります。ぼくは意味もなくまた胸を熱くし、ただ不条理をのみこみます。願いは雫となり、なんだか凶暴に背中を流れ落ちました。期待はやはりむなしい努力でしたね。


休みの今日、ぼくは机の下に入り込み、デスクトップ(PC)のふたを開けました。メモリーの交換です。


実を言うと、ほんとうのところは、少しばかりパソコンの動作が重くなったので1ギガほど増設したかったのです。でもよくよく調べてみると、ぼくのこの古臭い(ちょっとオーバーかなぁ)デスクトップは、なんと全部で1ギガまでしかメモリーを増設できないとのことでした。


とにかく少しでもと、今では古臭い512Kのメモリーを2枚購入、それでもいままでがトータルで512Kでしたからね、古臭くたってとにかく倍の1ギガです。つまりギリギリまでアップしたということです。


ただねぇ、3階の、屋根裏の、小部屋の机の下は・・・想像以上ですよ。みなさんいくらこの夏が涼しいとはいえ、夏の屋根裏の小部屋の机の下での増設作業は、やはり避けたほうがいいですね。断言します。アタリマエカ・・・


いつものことですがここで話題が突然変わります。じつは秋が近づくにつれて問題が起きました。ぼくはいつも問題をたくさん抱えていますが、こんかいの問題はね、かぎりなく人間に近い感性を持つ名犬ケンタクンと、かぎりなく動物に近い感性をもつオッサンが原因です。


ぼくら二人(犬と人間です。それがなにか?)は、共通の認識として「秋はとにかく寂しいのだ」ということを共有しています。つまりただ秋だということだけでなんとも寂しいのです。なもんだからケンタクンは遠吠えをさかんに始めます。あのね、遠吠えっていうやつはね、なんというかとにかく震えます。精神の奥がね。


でもってその精神の震えってぇやつがね、ぼくは大好きでね、なもんだから一緒に吼えちまいます。遠吠えをね、とにかく精神が単純なんでね、だからやることも単純なんです。


ワオーーー ワオーーー ワオーーー ワオーーー・・・


                      



近所迷惑なんてぜんぜん考えませんでしたね。昼間だし、いい音色だし、ハモッてるし、まいにち役所のスピーカーが流す騒音お知らせよりもうるさくないし、それにたぶん、近所にはワンちゃん遠吠え好きの人がイッパイで、でもってイッパイ喜んでいるだろうし・・・とにかくそう思っていましたからね。


ところが、夏にしてはたいへん涼しく、遠吠えには最適な昼下がりの午後・・・?昼下がりって午後のことか、まぁいいや、とにかくその昼下がりの午後に、我が家の前に○○市役所環境課の車が止まりました。でもって屈強な体つきだけど精神がとんでもない方向に偏っていそうな若者と、なんだかとても腹黒そうな中年のオヤジが降りてきたのです。


役所関係の車が身近で止まったりすると、本能的に駆け出し逃げる習性を・・・とにかく今はもう持っていないので、呼吸を整え、それでもすこし身構えていると、腹黒オヤジがニヤけた顔から虫歯を除かせながら話しかけてきました。


にやけた腹黒オヤジが言うには、ケンタクンの遠吠えの美声がなんとも気に入らない野郎(男か女かわかりません)が、ナントカしてほしいと役所に連絡してきたらいいのです。でもって名乗らないのです。とにかく役所にそう言って頼んできたとのこと・・・


 じつはね、ぼくにはうんと凶暴なところがあります。自覚しています。だから抑える為にけっこうせいいっぱいの努力をしています。努力がいっぱいなだけ、どこかでしこりを落とさなければ精神が持ちません。


 しこりいっぱいの気持ちを抑える為に、何時間も夜行バスに乗ったことがありましたよ。揺られながら、眠れずに、ただ暗い街を睨みつづけました。空があかるくなり胸のしこりが解け始めたころ、ぼくはやっと気がつきました。夜行バスが過去に向かって走っていることをね。


 上手に生きることがとても苦手です。


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