遊歩道・雨




 遊歩道・雨



 レンガの遊歩道、雨が斜めになって落ちてきます。ケヤキの小枝が、意識せず無遠慮でもあるけど、でも仕方なしに歩道に張り出ています。通り人に、うっとうしいと、邪険な態度で振り払われるのが心配です。そんなことでぼくは少し立ち止まりました。


 ほんとに余計なことだよね。でもそんなことで立ち止まるのが・・・しょっちゅうです。野良犬を見れば車を止め、幼い子が泣いていれば親を探し、お年寄りが道端でしゃがんでいれば声を掛けます。やはり余計なこと・・・でしょうかね。


雨が斜めに落ちることに気がついたのはだいぶ昔です。すこしばかりの行き違いで・・・いや先方にしたらうんと大きな問題だったのでしょう。そのことでぼくは、いつものように居場所を変えました。本心ではないのにね。いつものことです。まるで慣れっこになってしまいました。


立ち止まるのにも理由があります。そのときもぼくは、希望に胸をふくらませていた毎日が、こんなに簡単に消え去るものかと、水道橋のホームで、電車を待ちながら、雨の街をにらみつけていました。未来への期待、ぼくにはとんでもなく貴重なのにね。無念。


 雨のホームでは、立ち止まる人はいても、街を睨み続ける人はいません。アタリマエカ。通り過ぎる人ばかりのホームは騒々しく、とにかくさわがしい。それでもそれがここちよく、居心地がよく、いつしか時刻表横のベンチは、ぼくの部屋になっていました。


合唱した手の親指が、アゴの重さに悲鳴を上げ始め、ぼくを帰路に催促させます。誰に合図でしょう、ぼくは小さくうなずき電車を迎えます。乗車、何時か着けるだろう終着駅に向けて。


すこしばかり雨が続いています。あのさぁ、雨の遊歩道はね、通り人がすれ違うには狭すぎるね。小さな女の子、学校帰りでしょう、ランドセルをしょって、バッグを持って、そのうえ傘をさしています。友達と楽しそうに話しながら笑いながら歩いてきます。


ぼくとすれ違うとき、彼女達はこまった顔をしていました。でもってすこし苦笑いしながら横になり、一列になってぼくを見上げます。


 「ありがとう」 ぼくは苦笑いでなく、満面の笑みでこたえました。うれしくなって、温かくなって、こたえました。彼女たちは何事もなかったように、笑いながら傘をさしながら通りすぎます。笑顔がうらやましく、少女たちの時代がうらやましく、しばらく過ぎ往く彼女達を見続けました。


 すこしばかり乾燥した日々を、この数日、秋の雨が潤してくれています。木々が、草花が大きく手を広げ、からだいっぱいで喜んでいます。きっと待ちわびていたのでしょうね。


どれだけまっすぐ見つめても、斜めに降る雨は、ぼくには斜めにしか見えません。垂直に落ちることがあるのでしょうか。期待してもいいのでしょうか。いつか、かならず希望をかなえてくれると。


自然はいいよね。けっして裏切らないから。ぼくはね、努力は惜しむことは避けたいのです。ほんとですよ。みんなと仲良く楽しくやっていけたらと、いつでも思っています。いまでもね。ただ我慢が出来ないのです。理不尽なことには。


 
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